RASLER
FINAL FANTASY 12
*title-Rasler10 : 01.地平に想うは
微かに湿度を持った風が、頬を撫でる。逆らう事なく流れていく、白い雲。青い空。
亜熱帯と言う気候ながらも、その高い気温が何処となく過ごしやすいと感じてしまうのは、恐らく祖国も似た様な気候であるからだ。ぼんやりと頭上を飛び交う鳥を見ながら、白金の鎧を纏った青年―ラスラは小さく息をついた。
「(…静かだ)」
耳を澄ましてみても聞こえるのは風の音と、鳥の声。市街地から僅かなりにも距離があり、そして高く聳え立つラバナスタ王宮の上階では、下で暮らす人々の喧騒が聞こえる事が無い。ましてや遠く離れた土地で起こっている戦の音など聞こえる筈も無かった。
「(期待はしていなかったけれど)」
戦の音が聞こえる、見える、そんな事を端から期待して此処へ来た訳ではない。王都ラバナスタの外まで見渡す事の出来る其処は、ラスラ自身初めて足を運んだ場所だった。恐らく、自分が一人で出歩ける範囲の中で、一番高い場所だ。
「(錯覚を起こしそうだ)」
長閑とも言える時間。其処から見える景色も、吹く風も、鳴く鳥の声も何もかもが穏やかで、思わず今の状況が夢なのではないか、と思ってしまいそうになる。ラスラは小さく口唇を歪めるとゆっくり頭を振った。夢である訳がない。夢であれば、と何度思ったかわからないが、これはれっきとした現実だ。それは痛い程わかっていた。もうすぐ自分は戦場へと赴く事となっている。アルケイディア軍と戦う為に。
「(月日は…早いものだ)」
急激な情勢の悪化は、自分が祖国ナブラディアを後にしてすぐの事だった。隣国アルケイディアの圧力が強まり、ナブラディア国内の親ロザリア派閥が武装蜂起。それにより起こった大規模な内乱。計った様なタイミングで始まったそれは、想像出来なかった事ではない。自分たちの婚礼がダルマスカとナブラディアの苦境を打開する為に行われたのは、誰が見ても明らかな事だったからだ。しかし―
「(まさか…なくなって、しまうとはな)」
婚礼を終えて約一月後のある日、ラスラの祖国・ナブラディア王国は消滅した。消滅―消えてなくなったと聞いて誰が信じるだろうか。父が、母が。家臣や親友、王国に住まう多くの人々が。一瞬にして失ったそれに、声が出なかった。自分だけが残ってしまった。そう思った。
「(―でも、『残ってしまった』んじゃないんだ)」
「ラスラ?」
思いに耽っていた背後から伺う様にかけられた声は、澄んだ美しい音色。ゆるり、と振り返れば、そこには心配そうな顔をした幼馴染―今は妻となったアーシェの姿があった。
「どうしたの?」
「(君を守るために、君の大事なものを守るために)」
そう口に出すと、彼女の顔はより一層曇ってしまうだろうと思うから。
「何でもないよ、アーシェ」
彼女の知ってる顔で、ラスラは笑った。
「(僕は、僕のやるべき事を)」
地平に想うは、自分の存在意義。
2008/11/24 皆川(ラスラはヘタレっぽいけど、純粋で強い子。ただ、ちょっと若過ぎた…。)