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WORDS

A delusion sentence.

Get it: ふつうということば(8059):廻環/裕さまから


普通だね、と、彼の主は言った。とても嬉しそうに。
昔の二人を思いだしてたのだろうか、はにかみながら、そう言った。


- ふつうということば -


任務を言い渡されたのは、二日前だった。小さな小競り合いではあるが、見過ごせない状況になたのだと、主は言う。
仕事が続いていた事もあり、とてもすまなさそうな表情で彼は二人を送り出した。
「足を引っ張るなよ」
目的地へ車を走らせている中、相手を見ず、獄寺はそう吐き捨てた。思い出すのは、主である彼の言葉で。
昔から悪態を吐きつつも、気付けば二人で行動する事が多かった。しかし、覚えている限り、彼が普通という言葉を使う事は無かった。イタリアに移り、マフィアに身を置いて数年。初めて言われたのだ。
「ああ」
楽しそうな声音が横から返って来て。
獄寺は無意識に、ハンドルを力一杯握り締めた。

指示された場所は、特に目新しい建物がるという訳では無く、昔ながらの建物がならぶ閑静な土地だった。一点通常と異なるという点、それは、全く人の姿が見えないだけ、という所である。
太陽は既に真上にあり、じりじりと皮膚を焼く。二人は道路脇に車を止めると、そろってゆっくりと降りた。何かしらの気配は見受けられず。獄寺は車に鍵をかけると、一歩、一歩、ゆっくりと足を進めた。その後ろを、これまたゆっくりと山本がついて歩く。常に一定の距離をあけて。

気付けば、それが常の行動だった。

とりあえず、手近の建物に足を踏み入れる。危険は解るのだが、如何せんこのままでは埒があかない。建物の中はとても荒れたもので、古びた木製の椅子が地面に転がっていた。
窓も所々ヒビが入り、外の風景が何十にも分かれている。
獄寺は辺りに注意を配りつつ、部屋の中央に足を進めた。

其の時。

音が、止まった。そう表現するのが一番近いのかもしれない。
別段、視界の中で何かが変化した訳では無いのだが、確実に何かが変わったのだ。
ほぼ無意識に、獄寺は身構えた。懐に手を忍ばせ、冷たい銃の感触を確かめる。警戒を解かぬまま隣に視線を移せば、山本もまた身構えていた。手にしていた竹刀は、既に一振りの刀へと姿を変えている。
「なぁ」
「うるせぇな」
交わす言葉はそれだけで。お互いの視線は交わる事無く、二人は走り出した。

敵を殺す為に。


全てが終って。血で濡れたコンクリートの上で、獄寺は主である綱吉の言葉を思いだしていた。


2008/07/14 やっと持ち帰り第二弾。山獄書きじゃな以下略。笑。裕さんのサイトはリンクから飛べます。