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WORDS

A delusion sentence.

影の宿命(土方←斎藤←山崎)


似ている、と言う事はとても好ましく安心し、そして不快感を覚えるものだ。

「副長、巡察の報告ですが…」
そう言って副長を見上げる空色の瞳は、真っ直ぐで揺るぎがない事を自分は知っていた。絶対的な存在。この組織に無くてはならぬ大きな存在。副長・土方歳三を見る瞳は誰もが尊敬と崇拝と信頼と少しだけの畏怖とを感じさせる、そんな瞳だ。それは幹部とて例外ではない。皆、同じような瞳で副長を見る。しかし―
「…今日は三番組だったか。何かあったのか?」
返す言葉に事務的に返答する彼―三番組組長・斎藤一の瞳は微かに異なっていた。真っ直ぐで揺るぎが無いのは尊敬、崇拝、信頼それに違いは無い。けれど、微かに篭る熱が、斎藤の瞳を煌かせているのは事実。
「(慕っている、なんて生易しいものじゃない)」
触れたら火傷をしそうな程の熱。その涼しげな姿の中に、どれだけの灼熱を押し込めているのだろう。きっと真面目な斎藤の事だ。その想いが外へ流れ出す事は決して無いだろう。斎藤の想いは、斎藤自身の生き方を邪魔しかねない。斎藤が思う最良な道を歩むのに、いらない想いだ。上手く気持ちを摩り替えて、無意識に封じて出来れば無かった事にしてしまいたいだろう。解放される事の無い熱をただ抱えていくのは、頭のいいやり方ではない。
「…山崎くん。何をしている」
中庭の端で、思考に耽ってしまっている山崎を発見した斎藤は、訝しげに声をかけた。らしくない、と思っているだろう。自分はこの様な無防備な場所で、考え込んだりしないからだ。
「…特に何も。風に当たっていました」
半分は嘘ではない。中庭に出てきた理由のひとつだった。変わらずいつもの無表情で返す山崎に、斎藤は一瞬思案し、そして―
「…邪魔したな」
浅黄色の羽織を翻すと、中庭を後にする。その背中を見て、山崎は目を細めた。
「(まるで鏡の様だ)」

貴方は彼の影、私は組織の影。
合わせ鏡に映るその瞳に篭るは、決して日の光に曝される事のない、熱。


2009/08/28 皆川(わかりづらい…山崎さんも同じって話で す)