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WORDS

A delusion sentence.

黒に溶ける(土方←(山崎×斎藤))


静まり返った室内。鈍く照らす行灯。
夜深き刻、この様な時に徘徊するものはおらず、ただ無音の空気が流れていた。


緩慢な動きで身支度を整えて、乱れた髪を結い直す。そうしながら見下ろした其処には未だ横たわったままの男の姿がある。いつも隙無く着込まれた漆黒の着流しはしどけなく崩され、露わになった日に当たらないが故の白い足は無防備に投げ出されていた。足の奥、秘められた場所さえも曝け出したまま、それを隠しもせずにただ微かに息を荒げる姿は、艶かしいとしか言い様がない。
「…斎藤」
そう声を掛ければ、ビクリと跳ねる身体。まるで何かを恐れるかの様に左右に揺れた顔には、自身の白い首巻が巻き付いている。視界を塞ぐそれを取る事もしないまま、音にならない声を薄く開いた口唇から零していく。一見すると無体を働かれた生娘の様だと思い、小さく笑う。
「…慣れてきたな」
「…っ」
肢体に飛び散るは白濁と赤。貪り、食い散らかされた様なその有様は、常の姿からは想像出来ない程に淫猥で、落ち着きを見せた筈の熱が込み上げた。―自分しか知らない姿。こんな善がり乱れる姿を自分以外の誰が知っていると言うのだ。
「嫌でもわかるだろう?俺の存在が」
「…は…っ」
「いっその事、抱き潰してやりたい」
其処彼処につけた痕と注いだ熱は存在を主張し、そして身体を蝕む。拒んでもそれは抗えない事実。
「誘ったのは、お前だ」
しかし、そう仕向けたのは自分。燻る想いを抱えるそれに手を差し伸べて、その手を掴みやすい様に笑いかけた。自分の方を向く様に、自分の方へ堕ちて来る様に。
「罪悪感、感じてるよな?」
わざと口調を荒げて、声音を低くして。想い人と似通ったそれで追い詰める。布に覆われたままの瞳は窺い知れないけれど、そこに浮かぶであろう絶望に山崎は口唇を舐めた。


彼の幸せが自分の幸せ。けれど、彼が想い人と想いを交わすのは許さない。
だから現実を突きつけて罪悪感故に昇華出来ない想いで、自分はこれからも彼を縛るのだ。
彼の絶望が自分の幸せ。影は影らしく黒に溶け合えばいいのだと思いながら。

2010/01/06 皆川(実は超肉食系・監察方山崎。得意技は焦らしと言葉攻め(物真似付)です。笑)