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WORDS

A delusion sentence.

帷(土方×斎藤)


煌く鋼刃に翻る浅葱。風が鳴いた音と同時に散る飛沫。そして―静寂。
今まで多くの刃を見てきた己でさえも、見惚れる程の鮮やかさを誇る刀捌き。宵闇の中でひゅん、と一度空気を斬ると、彼奴はそのまま刀を鞘へと収める。
まるで何事も無かったかの様に立ち尽くしたその背中は、酷く冷たく見えた。

有無を言わせないその太刀筋と同じ様に。

「…ご苦労」
そう声をかけるとゆっくり振り返る身体。その瞬間に垣間見る彼奴の瞳が好きだった。
奥底に眠っている灼熱が隠れてしまう前の瞳。ぞっとするくらいに光を湛えた宵色のそれは、静かで威烈だった。
「…帰りましょう。長居は無用です」
かつて仲間であったものを切り伏せたとは思えない程の平坦な声。狭くて暗い路地に広がる死の臭いは、自分達を道連れにしようと纏わり付いてくる。
「…副長…?」
そんな中、まるで切り取られたかの様に凛と立つ姿。それは言うなれば死神の様。髪の間から覗く瞳は光を放ち、そしてそこに微かに溶けた熱が甘い死を誘い、己を手招く様だった。

「―…お前は…恐ろしいな」

平伏す骸達の中で薄い口唇へと口付けを落とした瞬間、駆け上がるどうしようもない程の飢え。身体中の全てが、その存在を貪りたいと目覚め始める。
死すらも支配する宵色の、そこに映るは甘い誘いに乗ってしまった愚かな男の姿だった。


―夜は、まだ始まったばかり。


2010/05/04 皆川(斎藤殺気萌えって話です…)