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WORDS

A delusion sentence.

secret mode(土方×斎藤)

※Mr&Mrs Smithパロ

こいつしかいないと、貴方しかいないと互いに思った。出会いは唐突で、一目惚れだった。
幸運というべきなのか、その時ばかりは信じてもいない神に抱き付いてお礼を言いたいと思った位だった。
それくらい衝撃的で、運命的な出会いだった。

だから、

結婚した事に後悔はしていないし、勿論間違いだとも思っていない。生活だって安定していて、不自由はしていない。小さな言い合いや喧嘩をしない訳ではないが、不満や文句の一つや二つがあったって、それなりに幸せだ。それは土方も斎藤も同じ意見で、同じ気持ちだった。
だが、何かが足りない。何かが違う気がする。結婚して5年経った近頃、家の中を漂うどことなく冷えた空気を感じていた。微妙に噛み合わない会話は作り笑いでやり過ごす毎日。愛しているか、と聞かれれば愛していると答えるだろう。だが、互いに言い様のない何かがあるのは事実だった。 原因は、理由は何だろうと考えても、出た答えは喉で痞えてそれ以上外へは出ようとしない。現状を変えたいと思っても、変える術が見当たらない。
そんな毎日を送る二人に、転機が訪れたのは偶然か、それとも必然か。
明かせるはずもない互いの『秘密』を、互いに知ってしまった事だった。


「…斎藤?何処だ?」
優しく穏やかにそう呼びかけた土方は、自宅の廊下を静かに歩いていた。日が暮れていると言うのに、電気は全て消えていて、部屋の中は薄暗い。
「何処にいるんだ?斎藤?」
気配を消し、周りに注意を配る。土方のその手に握られていたのはサイレンサー付きの銃だった。警戒を怠る事無く、銃を構えたまま慎重に歩を進める。
「さい…」
土方の無駄に性能のいい耳がカタン、と小さな音を拾った。壁の向こうの階段の上だ。土方はそこから死角であろう壁に背中を預ける。一つ息をつくと、目の前に飾ってあったガラス製のフォトフレームを持ち、壁から少しだけ覗かせ、音の方向を写し見た。
「…」
鏡とは違って、写す事を目的としていないフォトフレームは非常に見辛かった。フレームに収まっている写真―それはとても幸せそうに笑う二人の姿―の色や、装飾ではっきりと向こうの状態が確認出来ない。そんな状況に思わず舌打ちしそうになった土方が、微かに手首を捻った時、それは突然にはっきりとフレームに写り込んだ。
――こちらに照準を合わせたショットガンを無表情で構え、目を光らせた斎藤の姿が。
「!!」
土方が反射的に上体を低くすると同時に轟音が鳴り響き、先程土方が背中を預けた壁に大きな穴が開く。壁の残骸や置いてあった調度品の砕け散る音の中にガシャッ、と言う弾丸の再装填音が響いて、土方は急いで元来た廊下を逆に走り出した。それを追いかける様に壁に大穴が次々と開いていく。確実に狙いをつけている発射は、一切の迷いが無い攻撃だ。階段から死角になるであろう壁に背を落ち着けると、ひとつ息をつく。土方の姿を見失ったのか、ぴたりと止まる攻撃―そして、静寂。
「――…」
神経を研ぎ澄まして、土方は気配を探った。先程の攻撃は容赦が無かったが、追撃して来ないところをみると様子見だったのだろう。当てるつもりで撃ってはいたが、本気で殺すつもりでもなかった様な攻撃。自分は試されたのだと土方は思った。決して狭くは無い家の中、遮蔽物に塗れた部屋の何処かで同じくタイミングを計っている相手―斎藤は、何を思って、そして何処に居るのか。身体に染み付いた自宅の部屋の間取りを思い返しながら、土方は音も無く歩き出す。闇の中で、獲物を狙うかの様な紫の瞳を土方は煌かせた。

それは、『秘密』であった仕事の始まりと同じ様に。



2011/02/04 皆川(殺し屋夫婦ww 加筆修正済)