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WORDS

A delusion sentence.

闇に笑う(土斎企画お題「木陰」)



「…厄介だな…」
柳眉を寄せ、困った風にそう言った男に、目の前の男―斎藤はそうですね、と笑ってみせた。森の中、獣道から少し中へと入った場所で、上を見上げる。木々に遮られて、空は見えなかった。互いの姿さえ曖昧になるほどの暗闇の中、極限まで近づけた顔へ土方の指が滑る。
「…副長」
「こう暗いんじゃ何も見えねぇ…」
探る様に確かめる様に、土方の手が斎藤の身体に触れた。指にかかるボタンの感覚に呆れた吐息が零れて消える。元々そのつもりで茂の影へと雪崩れ込んだ。だが、押し倒され乗り上げられる形となった斎藤の着衣は少しも乱れず、そしてそれは土方も同じ事だった。
「…どうしたもんかな…」
重なっている身体を離す気にはなれず、先を急かす様に触れ合わせた下肢にはやり過ごし難い熱が篭っている。だが、暗闇に支配されたこの状態では、繋がり合う所か素肌すら触れる事は今の二人には難しい事だった。
「見た目はいいんだが、こういう時に困るってのはわかったな…」
「…はい」
今の二人が着ているものは、様々なルートから入手された異人の衣―洋服だった。ボタンにベルトなどの全く知らない存在が付いた着慣れない洋服。手探りでそれらに触れても、暗闇の中では何がどうなっているのか解らない。仮に無事、洋服を脱いだとしても、再度きちんと纏えるかと言う問題もある。
「ったく…時間もねぇってのによ…どうすんだこれ」
斎藤の項に顔を埋めながら、土方は大げさに溜息をついた。いつもなら首巻き一枚剥ぎ取れば、すぐそこに有る白い項。それすらも外套の高い襟と真っ白なスカーフとやらで完全に塞がれてしまっている。味気無いと落胆しながら、土方は斎藤の腰周りをゆるりと撫でた。
「このままじゃ帰るに帰れねぇ」
土方と斎藤が今いる場所は、他の隊士達が休息を取っている陣から左程離れてはいなかった。副長や組長がそう易々と陣を離れていいものではないからだ。だからこそ早く繋がり合って高まって満たされようと、手っ取り早く近くの木陰に雪崩れ込んだのだ。しかし、現実には満たされる所か繋がり合う事さえ出来ない。その上、時間は刻々と迫ってくる。土方は悩んでいた。どうにかしてこの状況を打破出来ないだろうか、と。百戦錬磨、知らぬ色事は無いと自負している自分が、こんな事で想いを遂げられないとは何たる事か、と。
しかし―
「…思いつかねぇ…」
知らぬ色事は無いと言っても、時代の流れには逆らえない。洋服での色事など未だ数える位しかした事がない状態では、良い案が浮かぶ訳でもなく、土方は何度目かの溜息を吐き出す。
「…どうしようもねぇか…」
「副長」
半ば諦めかけた土方が身体を起こそうとした矢先、それまで黙ったままだった斎藤が徐に口を開く。
「何だ」

「繋がる事は出来ませんが、良い考えがあります」



「斎藤…お前…っ」
木に背中を預けた土方が、震える声を出した。変わらず乱れの無い洋服。暗闇に少しだけ慣れてきた土方が見るのは、自分の下肢に顔を埋める斎藤の姿だ。スラックスのボタンの部分だけを外して、土方の熱を頬張るその姿は何とも淫猥で、尚の事に熱が高まっていく。
「は…っ…!」
熱に纏わり付く柔らかな感触が堪らず、土方は斎藤の頭に手をやった。無意識に腰が揺らめき出すのを止められなかった。
切なげに見上げてくる斎藤の瞳に、軽く頭を撫でてやる。
「んう…」
鼻から抜ける甘たるい婀娜めいた声に、ふと見れば、斎藤自身も前を寛げている。自らの熱を高めながら、自分に奉仕している斎藤により一層熱が膨れ上がった。
「お前…何やってんだ…っ」
土方が遠回しに自分がやってやると言えば、目だけでとろりと微笑まれる。土方の熱から斎藤がゆっくりと口を離すと、何とも淫らがましい光景が広がり、土方は気を遣りそうになるのに必死で耐えた。
「…は、っ…副長は何も、せずに」
触れられると、奥に欲しくなりますので。
そう告げられて、土方はきつく目を閉じた。ごくりと喉を鳴らして息を整えようとした矢先、再び熱を暖かなものに包まれて、土方は肩を揺らす。快楽に震える手でめいっぱい力を込めて、斎藤の頭を掴みながら土方は光が届かない暗闇に笑いかけた。


此処が暗闇に支配されていなければきっと、陣に戻るのは朝になっただろうと思いながら。



2010/05/01 皆川(「木陰」関係無くなった…!意味わかんない…)