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WORDS

A delusion sentence.

to Monochrome. (D.Gray-man : L→Y )


空は青空。小さな駅のホームの一番先頭に立って、ラビは空を見上げる。髪に絡み付く、少しだけ強い風を受けながら、ラビは手に持ったトランクを地面に置いた。もうすぐに汽車がやってくる。未だ見えない汽車の煙を想像して、思わず口許が緩むのを止められなかった。おもむろに手を入れた団服のポケットの中で触れる感触も今の気分に拍車をかける。

(つけてくれるかな)

ポケットの中、指で撫でるそれは、天然石のブレスレットだった。
任務先の村の老夫婦が営む小さな店にあったもので、しかしそれはシンプルながらも存在感があり、ラビは一目惚れをしてしまった。値札のついていないそれを手に取ったラビに、店の主人は村を救ってくれたお礼として代金は要らないと言ってくれたが、持っていた決して少なくない有り金全てを置いてきた。それだけ、それに価値があると思ったのだ。しかし、ラビ自身が身につけようと思っての事ではなかった。あの彼の、普段は見えてない手首に映えるだろうと思ったからだ。少し不健康そうに骨張ったあの手首に。

(お守りなんて柄じゃないけど)

神の使途と呼ばれながらも、信じるものは自分自身しかいない自分達が、見えない何かに想いを込めるだなんて。でももしかしたら彼は日本人だから、そういう感覚は自分より持っているかもしれない。持っていてくれたらいいとラビは思った。今、何かに込めておける想いなら込めておいた方がいいのだ。その方がいいに決まってる。

(なんか嬉しくなってきた)

暗いポケットから取り出して、太陽に掲げたそれは、まばゆく光る。薄翠のアベンチュリンがメインに漆黒のオニキス、薄赤色のローズクォーツが入ってるのは愛嬌だ。店では気にしなかったその石の意味を思い、ラビは眼を細めた。翠と黒と赤。くすぐったい気分が笑顔に溢れ、思わず石に口付けた。

(似合うなんて言ったら怒るかな)

不機嫌そうな、それでいて照れた様な顔を思う。それと同時に遠くから汽車の汽笛の音がした。ラビは大事そうにそれをポケットに仕舞い、地面のトランクを持つ。もうすぐ、もうすぐ汽車がやってくる。逸る気持ちを押さえながら、ラビは笑顔を隠す様に片手でマフラーを巻き直した。


(早く君に会いたい)


無彩色の君へ極彩色の口付けを。

2007/12/01 皆川