<< RETURN TO MAINMENU

WORDS

A delusion sentence.

space sonic. -The first part-(8059)


日曜日、午後2時過ぎ、天気は晴れ。
窓から差し込む日差しはポカポカと暖かくて、うっかり眼を閉ざしていた部屋の主は口周りに不穏な気配を感じ、眼を開いた。
「(…やっべ!よだれ垂らすとこだった!)」
開いていた野球の雑誌はどうやら無事の様だ。おもむろにそれと自分の口をを閉じると、背後を振り向く。ベッドに寝転がって漫画を読んでいる彼はどうやら山本の開けっ放しだった口には気付いていない様だ。『なんだよ』と言いたげな瞳に苦笑いで返す。
「…獄寺、あの…」
「んだよ」
「折角持ってきて頂いたのに大変恐縮なのですが…」
「だから何だよ」
お世話でも気が長い方ではない獄寺は、既に少しいらつきを言葉端に滲ませている。
「…アレ、止めていい?」
アレ、と後ろを指差したのはコンポだ。部屋の対角線上に設置された小さなスピーカーからは音楽が流れている。
「…何でだよ?」
さっきとは一転、きょとんとした表情で問うてきた獄寺に山本は『やっぱ人間見た目で判断しちゃいけないよなぁ』等と改めて感心する。薄々思っていたとは言え、事実を突き付けられると何だか認めざるを得ない。
「眠たくなんねーの?俺すっげ眠くなんだけど…」

---

中学の入学祝いに親戚のおじさんから買ってもらったのはコンポだった。普段音楽と言えば応援歌くらいの山本には過ぎた贈り物で、使用回数は数えるくらいしかない。父親いわく『宝の持ち腐れ』なそれは埃を被ったままの姿で、獄寺に発見された。
「…おま…何だこれ…使ってねーのか」
もったいねー、とまるで汚いものに触る様な手つきで獄寺がコンポの電源を入れる。『HELLO!』なんて脳天気な言葉がディスプレイに表示され、ガチャリガチャリと機械の作動音がした。
「どした?」
けたたましく作動音が鳴動したと思ったら途端に静かになった室内。コップに麦茶を注ぐのに夢中だった山本は、顔を上げる。見えたのはディスプレイを覗き込む獄寺の姿。
「…なんも入ってねぇ」
「あー?」
「なんかねぇの?」
この時の『何か』とは恐らくCDとかそういう事なのだろう。自分でも最後に使った日を思い出すのは難しいくらいなのだから、当たり前にCDなんてものはない。
「ないよ」
あっさりと爽やかにきっぱりと言い切った山本に、獄寺は溜息をついた。
「こういうの持ち腐れって言うんだぜ」
コンポ作動を諦めて、テーブルについた獄寺に麦茶を手渡す。やっぱりお前は『持ち腐れ品』なんだってよ、とコンポに話し掛け、鞄からノートと教科書を取り出した。今日は勉強を教えて貰うのだ。
「…じゃあ獄寺なんか貸してよ」
「あぁ?」
「CD」
シャープを数回ノックしながら、思い付いた言葉を言うと、獄寺は今度なと呟いた。きっと喧しいロック?とかそういうのを持ってくるのだろうと山本は思った。
「(俺、聞けるかな)」
獄寺が好きなら大丈夫だろ、そう軽く思って、山本はうんざりする数字の羅列を眺めた。


 Next : The latter part

2007/12/01 皆川