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WORDS

A delusion sentence.

焼きつく残像(8059)


高校に入って初めて出来た彼女は、性格のきつさが校内でも有名な顔の綺麗な子だった。

「じゃあ、私帰るね」
「おう」
今日は日曜日。相変わらず実家暮らしな自分は、彼女を家に呼ぶ事は出来ても泊める事は出来ない。そもそも彼女は泊まる事なんか考えていないに違いない。付き合い始めて早3ヶ月。自分と彼女の間には嘘みたいに何も、無い。

「家ついたら連絡して」
「…面倒臭いなぁ…無事に帰れたらね」
そう言ってニヤリと悪い顔で笑った彼女を自分は送ってあげたりしない。此処から電車で2駅。そんなに遠くない距離を彼女は独りで帰る。これは付き合い始めから変わらない事だった。
「絶対連絡」
「わかってるよ。いい加減毎回しつこい。」
プライドの高さなのか別の要因なのか、彼女は送られるのを異様に嫌がった。他にも荷物を持ってあげると怒るし、高くて届かない場所の物を取ってあげたりするのも怒る。要は女扱いされるのが嫌なのだろうと思う。姿こそ女であれ、中身は男である自分が呆れるほどに男前だったりするのだ。

「じゃあね、山本」

そういって彼女はぱたりとドアを閉めた。それを見ながら山本は玄関に立ち尽くす。彼女が帰った後はいつもそうだった。ゆるい瞬きの間に、ちらちらと掠める残像が、山本の足を玄関に縫い止める。何故かいつまでも名前で自分を呼んでくれない彼女の声に、もう一つ声が重なって聞こえた気がして、山本は奥歯に力を入れながら自室への階段を駆け上がった。


なかった事に出来てない今を、アイツはどんな顔で笑うだろうか。

「(アイツの全てが焼きついて離れないんだ)」

2008/01/23 皆川(マフィアにならなかった場合の山本武17歳青春真っ盛り/獄寺イタリア帰国後)