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WORDS

A delusion sentence.

不器用で最高の束縛方法(8059)


「…獄寺、知ってる?」
「…知らねー」
「まだ何も言ってないだろ」
獄寺の絶対的なテリトリー―つまり彼の自室で、まったりと休日を過ごす、そんな日。モノトーンなソファと、それに寄りかかる獄寺との間に身体を割り込ませる事に成功した山本は、その身体を腕で包み込んでいた。目の前のテレビから視線を外す事がない獄寺が、いらつきを滲ませた声を出す。
「獄寺は…カマキリって知ってる?」
「お前…俺を馬鹿にしてんのか?」
何でそんなに突っかかってくるんだ、とは言えなかった山本は、苦笑いを零すと言葉を続けた。獄寺の返答を気にしていたら話が進まない。
「昨日テレビで見たんだけど、カマキリのメスってオスを食べちゃうらしいのな」
「…で?」
「え?」
「何が言いたいんだお前は」
溜息交じりに言う獄寺の視線は、まだテレビから動かない。放送されているのは外国のニュースだ。
「…いや…凄いなー…と思って。食べちゃうんだもんなバリバリって」


でもちょっと羨ましいかもなんて


「俺はお前を食べたりしないし、食べたいと思った事もない。大体俺はオスだしな」
冷たく、そう言った獄寺に、山本は眼を丸くした。『羨ましい』は口に出さなかった筈なのに、何でわかったのだろうか。きょとん、としているだろう山本を思い、獄寺は小さく笑う。
「ただ、お前がどうしても俺を食いたいって言うのなら、考えてやってもいい」
少しだけ振り向いた獄寺の碧の瞳が、山本の顔を見上げる。視線に射抜かれた山本は、力なく項垂れた。どさくさに紛れてうなじに顔を埋めたのは偶然と言う必然である。
「勘弁してよ…」
それが何にかかる『勘弁』なのかは、震える声が物語る。何て奴なんだろうかこの獄寺隼人と言う存在は。知れば知るほど掌の上で転がされている様な弄ばされている様な。所詮自分の考え付く事なんか、この頭脳明晰な獄寺にとっては言葉遊びに過ぎないのだろう。獄寺を抱いている腕に力を込めて、山本はうなじに口唇を落とした。

「でも食わせてやるかどうかはそん時の気分次第だ」

2008/02/06 皆川(カマキリが本当にこういう習性なのかは記憶が曖昧です…)