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WORDS

A delusion sentence.

DAYBREAK'S BELL(8059)


4時間目の授業は体育で、しかもサッカーだったから。失礼ながらも勝手に他人のロッカーを開け、ジャージの入った袋を取り出して、教室を後にした。
「ツナ!先行っててくれな!」
そう言い、向かうは保健室。サボり中のクラスメイトを起こし、サッカーに参加させると言う使命を仰せつかった山本は、廊下を鼻歌混じりで歩く。本日のサッカーはクラス対抗で、その上負けた方はグラウンドの整備と言う罰が待っていた。何でも明日にサッカー部が他校と練習試合を行うらしい。
「(みんな何が何でも勝ちたいのなー)」
グラウンドの整備が嫌だと言うより、ただ単に負けたくないと思ったクラスメイトは運動神経抜群の山本は勿論、隠れたエースも戦いに参加させようと決めた。だが、そのエースを保健室のベッドから叩き起こして、あまつさえサッカーに参加させると言う難易度の高いミッションは、案が出た所で実行出来る者はいなかった。そのエースとは学校で上位に入る程の問題児・獄寺隼人であるからだ。常に眉間に皺を寄せ目付きは鋭く、制服は派手に着崩し校則は完全無視。その上誰が見ても一目瞭然な日本人離れした容貌。憧れに近い恐れを抱いているクラスメイトは叩き起こす事はおろか話しかけるのだけでも大変な事だったからだ。

『沢田頼む!』
『え!お、オレ!?』
そんな獄寺と一番仲がいいと思われている綱吉は、いきなりの頼み事に驚き声を上げた。正直、綱吉だって獄寺の事が全く平気な訳ではなかった。自分が10代目であると言う事は限りなく自分を安心させる事が出来る要因だったけれど、それでも寝ている獄寺を叩き起こすだなんて。思わず黙り込んでしまった綱吉に、クラスメイトがじりじりと詰め寄る。そんな時、綱吉にとっての―勿論クラスメイトにとっても―救いの神は明るい声を出した。
『オレが起こしてきてやるのな』




「獄寺〜?」
保健室の一番端のベッド。覗き込んだそこで眠る獄寺を発見した山本は、仕切り代わりのカーテンを開けた。ベッドサイドへ近付き、獄寺を揺り起こすために手を伸ばす。
「今日サッカー…」
明るい山本の声がふいに切れ、獄寺の身体に触れる筈の手は空で止まる。瞳を閉じているが故に見える、穏やかなその顔。あちらこちらに遊ぶ寝乱れた銀の髪。着崩したワイシャツの胸元から、露になる白い肌。いつもとは違った光景に、山本はただ呆然と見る。そんな視線を惹きつけるかの様にキラリと首元で光った複雑な彫刻のペンダントが太陽の光を乱反射した。

「(…これやばくね…)」

呼吸に上下する胸元の、ワイシャツに隠れた部分まで気になり始めて、思わず喉を鳴らしてしまった山本は次の瞬間、凍りついた。獄寺の翡翠の瞳が、山本を射抜いていたからだ。いつから、目を開けていたのだろうか。いつから起きていたのだろうか。瞬間、頭を巡った思考は、軽い混乱を起こす。そして当初の目的を思い出し、言い訳がましくもそれを告げようとした時―

「    」

どさり、と山本の手から袋が落ちたのと、始業開始のベルが鳴り響いたのは同時だった。

2008/10/26 皆川(同タイトルの曲とは何ら関係ありません…orz)