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WORDS

A delusion sentence.

ワンサイドゲーム(8059)


ジャリ、と小石を踏む。切り立った岩肌に広大な空間。素っ気無い板の仕切られたテーブルにやる気のない屋根。そんなカウンターが一列に並ぶ人気のないそこは、しんと静まり返っていた。

「本当にお前はよくわかんねぇよな」
いつもは遊ばせている銀の髪の毛を後ろで一つに括り、ゴーグルをする見慣れない姿。それをぼんやりと眺めていた山本は、目を瞬いた。
「ライフルも持たないで付いて来たって、何も面白くねぇだろ実際」
「そんな事ないのな。大体俺ライフル持ってないし」

久し振りの休暇。その日、獄寺は射撃場へと訪れていた。元々、趣味の一環であったそれは、ボンゴレの中枢となってからはとても重要な意味を持つことになった。趣味としての射撃―それは仕事での『狙撃』として利用価値があったからだ。趣味と実益を兼ねる。聞こえはいいが、失敗が許されない腕が必要となるそれに、申し分無い腕にも関わらず獄寺は練習を欠かさなくなった。勿論、ファミリー内にも狙撃の腕がある人間は沢山いるので、そうそう獄寺の出番があるとは限らないのだが、出来て損はない。何せ中枢―守護者の中で後方支援向きの人間は獄寺しかいないのだから。

「じゃあ面白く賭けでもしようよ獄寺」
「やっぱ暇してんじゃねぇかよ…で、何賭けんだ。金か?」
手に持ったボルトアクションライフルを構え、装備されたスコープを再調整しながら獄寺は面倒臭そうに返す。獄寺と共に射撃場に来てから早1時間。決して短くないその時間を山本は何をする訳でもなくずっと獄寺の後ろで立っていたのだった。
「金…はいいや。…やっぱここは獄寺自身を賭けて」
「…この変態野郎が」
ゴーグル越しにぎろりと睨んだ獄寺の眼差しを笑顔で受け流し、山本は獄寺に近付いた。手を伸ばし、その色素の薄い頬を撫でる。
「獄寺の背中見てたら欲しくなってきたのな」
「…一発でも外したらくれてやる―好きなだけな」


「つーか、ライフル。”持ってない”じゃなくて”持ちたくない”の間違いだろ」
「…んん?」
はぐらかそうとする山本の態度に、獄寺は一つ溜息をついた。山本は勿論、獄寺以外の守護者は皆、銃の携帯をしていない。挙句の果てには現在の10代目ドン・ボンゴレ―綱吉もだった。接近戦向きの人間にとって、銃は邪魔以外の何者でもないらしい。
「…まぁ、いいけどよ…」
今更何を言っても無駄だとわかっている獄寺は、呆れた口調で手に持ったライフルに弾を込めた。それを見て、山本は獄寺の隣から後ろに下がる。
「はは。じゃあ頑張れな」
「思ってねぇ癖によく言うぜ」
その獄寺の言葉を合図にはるか遠くの岩陰に現れるターゲット。獄寺から三歩程度後ろにいる山本の肉眼ではほとんど認識出来ないそれに、獄寺はライフルを構えるとスコープで瞬時に狙いを定めた。なめし革の手袋で包まれたその指が、トリガーを引く。途端、ダイレクトに鼓膜に響く弾けた音が一つ。
「Singolo」
ブリーチボルトを倒し前へスライドさせ、弾室から薬莢を飛ばす。キィン、と煌いたゴールドの薬莢が地面に落ちるまでに、次はブリーチボルトを後ろへと戻し弾倉から弾丸を装填。銃口の先は依然ターゲットを狙ったまま微調整し、トリガーを引く。
また弾ける音が一つ。
「Sosia」
獄寺の右に飛んでいく薬莢。カン、と高い音が地面に響いて、弾けた音がまた一つ。
剥き出しの岩肌に反響するその音は、尾を引いて空へと消える。ゆるり、と構えの姿勢を解いた獄寺はライフルの銃口を下へと向けると、ゴーグルを額へと押し上げた。
「Perfetto」
してやったり顔な獄寺は小さく呟きそのまま振り返ると、片眉を上げ山本に挑戦的な視線を投げた。どうやら獄寺的にはパーフェクトらしい。山本はそんな獄寺に挑む視線を返す。
「どうかな。まだわかんないぜ?」


数分後、硝煙香るその場で、見つめたターゲットシート。そこに残る貫通痕は一つ。見事なワンホールショットに、山本は困った様に眉を歪めて笑った。

「Perfetto…」


2008/04/13 皆川(射撃する獄寺が書きたかっただけ で す…)