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WORDS

A delusion sentence.

ラストダンス→ラストソング(8059)


馬鹿だと思った。今更そう思った自分も、それに気付かなかった過去の自分にも腹が立った。
ずっと想って何度もそれを口に出しかける度に必死に抑えてきたのが、馬鹿らしく感じた。
もう少し踏み出す事が出来ていれば、少しだけ未来が変わっていたのかもしれないのに。

「じゃあ元気でな」
そう言われて、鼻の奥がツンと痛くなる。
うっかり顔を顰めてしまった自分を見る、少しだけ眉を下げた彼の力無い笑みが酷く優しくて、自分の目頭が熱く滲むのを獄寺は感じた。マズイ。これはもしかしたら泣くかもしれない。誤魔化す様にそっぽを向いて、ワザとらしく欠伸なんかしたりして決壊しそうな涙腺をやり過ごす。
「面白みのないお前の挨拶なんて聞きたくねーんだよ。帰れ」
可愛くないいつもの言葉を吐き捨てて、手元の時計を確認する。
搭乗時間が迫っていた。目指すは我が故郷・イタリアの地。今日、自分はイタリアへ帰る。もう日本へ来る事は恐らく、無い。
見送りはいらない。そう言った自分の言葉を悉く無視して、彼は時間きっかりに見送りに来た。
「その口が悪いのも聞くの最後かと思うと、淋しいな」
冗談交じりに言うその言葉が、自分には冗談で済まされなくて軽く舌を打つ。苛々した。用事なんかない、ましてや想いを伝える訳でもない。もう二度と会えない彼との別れを惜しむ訳でもない。しかし一向に動く気配の無い自分の両足が、凄く憎らしかった。
「獄寺」
迫る時間。
「…んだよ」
動かない足。ぶつかる視線。
まるで柔らかく絞め殺す様な優しい視線に息が詰まった。

「ずっと、好きでした」

急に腕を引っ張られ、歯がぶつかる程勢い良く重なった接吻は、
涙が出る程、酷く痛かった。

2008/06/28 皆川(山獄ソングランキング2位のアレです。)