<< RETURN TO MAINMENU

WORDS

A delusion sentence.

エレクト(8059)


夕暮れの薄暗い部室。そこに集まるのは野球部員の面々だ。皆が集まっているというのに部室の電気を消しているのは、取り合えずの偽装工作だった。その理由は既に部活の時間が終了しているからと言うのと、もう一つ。

「………」

あはんとかいやんとかあられもない音声を発するテレビ。部室に備え付けられたテレビは今や、部員全員のギラつく視線に晒されていた。先輩の誰だかが―そこは重要な問題ではない―持参してきたアダルトビデオ。それは血気盛んな男子中学生の注目を浴びるのは必至で。あれよあれよと始められた鑑賞会は、場所を決める余裕すらなく土臭い部室で行われた。
「…」
まるでテレビに食い入る様に画面を見続ける部員達。その後方で、山本武は一人ぼんやりとその画面を眺めていた。心なしか息を弾ませ、もじもじし始める部員も居る中、山本の表情は変わる事が無い。画面ではこれ見よがしに繰り広げられる行為がどんどんと激しくなっていく。弛む豊満な胸、濡れて乱れる身体。確かに、これは『そう』なるだろうと思った。

しかし。
一向にその兆しが見られなかった山本を、鑑賞会を主催したらしい先輩は苦笑いで心配した。
『山本、好みじゃなかった?』
『いや…そういう訳じゃねーですけど』
『お前全然だったじゃねーかよ』
『…ちょっと体調悪いんですよ』
苦し紛れな言い訳でそれをかわした山本は、ビデオが終わっても尚、未だもじもじしている部員の中を潜って部室を後にした。山本だって健全な男子中学生だ。興味が無い訳ではない。勿論こういう鑑賞会や本の回し読みなどは歓迎する方だ。だが、そういうもので気分は高まるものの、自身が兆さないのも事実だったのだ。
「(だって俺、おかしいんだもんな)」
僅かに高まった気分を引き摺って、自宅に帰った山本は鞄を部屋の真ん中に投げ捨てると、傍らのベッドへと寄りかかって腰を落ち着けた。一度深呼吸をして眼を閉じる。そして、想うは―

「うん。ホラ。俺おかしい」

緩く開いた両足の間、そこに見る妄想はいつも憎まれ口を叩き合う彼の姿だった。

2008/11/24 皆川(下品でサーセンww)