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WORDS

A delusion sentence.

catastrophe such as cherry blossoms(8059)


後ろを振り向くな。後退るな。其処にはもう道はない。
前を見ろ。歩みを止めるな。ただ前だけを見据え、進むのみ。
想いを馳せるな。過去に囚われるな。何があっても、全ては自分の未来の為に。

―否、全ては、組織の未来の為に。

「…獄寺」
酷く情けない顔で自分を見るその姿に、苦笑いした。何て顔してやがる、と言いたくても口から零れるのは抜けた空気の音ばかり。不思議と苦しくは無かった。しかし、何かが喉に痞えている感じがして、眉を寄せる。
「…お前なんで」
何で、ってこっちが聞きたいくらいだ、と獄寺は思った。マフィア同士による大規模な戦い。それは信頼していたファミリーの裏切りと言う発端から熾烈な内乱へと発展した。誰が味方で誰が敵なのか。ここぞとばかりに周りのファミリーに攻撃を仕掛ける人間から、内部の目障りだった人間を始末しようと暗躍する人間。それはボンゴレ内部も例に漏れなかった。元々よく思われてない10代目ファミリーだったのだ。混乱に乗じて乗っ取ろうとする人間の予想などとっくについていた。しかし―
「なんでだよ…」
ボンゴレ本部への襲撃は、予定していたよりだいぶ早かった。そこは大きな問題ではない。問題は反乱分子の多さだった。思いの他、人脈があるらしい首謀者に舌を打ったのはつい先程の話だ。
「なん…何なんだよ!」

獄寺と背中合わせで戦っていた山本は、横からの不穏な空気に視線を滑らせた。少し離れたそこには銃を構えた敵の姿。銃口は明らかに自分の方を向いていて、引き金にかかる指が、動いた。
「(…やべっ!)」
今から斬り捨てに行くには勿論、避けるのにも時間が無い。当たる、そう思った山本が次の瞬間感じたのは何か大きな物が身体に当たった感覚だった。それはどう考えても銃弾では、ない。
「獄寺!」
自分の前に立ちはだかった銀色の風。連続して聞こえた発射音に、それは不自然に傾いだ。突き出されていた筈の兵器をつけた左腕は、糸が切れた様にだらりと揺れる。くの字に折れ曲がる獄寺の細い身体は、薄汚れた床へと壊れた玩具の様に転がった。
「獄寺!!」
叫びながら、敵を睨み付けると、そこには既に事切れた敵がいた。獄寺の攻撃が直撃したらしい。いきなり静まり返った空間で山本は、床に膝をつく。傍らに沈んだ獄寺は場に不釣合いな程穏やかな表情をしていた。何かをやり遂げた、そんな雰囲気すらあるその表情に山本は意味も無く叫びだしそうになった。
「待てよ獄寺。何だよどういう事だよ」
自分の背中を彼が守り、彼の背中を自分が守る。それはこの世界に足を踏み入れた時に結んだ無言の約束だった。今までもそれが違えられた事は無いし、これからも無い筈だった。では何故、彼―獄寺は自分の目の前で倒れたのか。静まり返った筈の空間に無粋な足音が響くのを聞きながら、山本は問いかけた。
「       」
ゆるりと動いた彼の口唇。それは音にはならなかった。呆然と見やる山本の前で、形のいい口唇が綺麗な弧を描く。急速に光を失っていく翡翠は、割れた窓から差し込む太陽の光で静かに煌いた。磨かれた大理石の床に散る銀の髪、白い顔。そして鮮血の赤。声を失う程の鮮やかなコントラストに、山本は一度だけ目を閉じるとしっかりと立ち上がった。


散るならいっそ華々しく潔く、美しく。
空を見たままの彼の翡翠に焼き付くくらいの

2009/05/26 皆川(舞い落ちる愛で吹雪ですね/つーか摩訶不思議過ぎるこの話)