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WORDS

A delusion sentence.

さようなら、ジュリエット(8059)


『獄寺はロミオとジュリエットって知ってる?昨日テレビでやってたじゃん。俺アレ初めて見たんだけど凄いのな!会って3日だぜ!?…いや…4日?まぁそれはいいんだけど、会ってすぐ結婚してセックスしてそして死んじゃうんだぜ。何つーか壮絶っつーの?凄いなーと思ったんだよ。そんな3日だか4日だかで死んでもいいな、って思える人に出会うってのがさ!お互いすげぇ好きなのに周りとか色々あって、でも貫くっつーの?全部捨てちまうんだぜ。アレ凄いイイと思うんだよ。オレDVD欲しくなっちゃった。』

そこまで言うと山本は、軽く息をついた。込み上げる何かを吐き出して、多少はすっきりしたのだろう。獄寺はそんな山本をちらり、と一瞥すると、取り出した煙草に火をつけた。下校中の身ではあったが、学校から離れたこの距離ならさして問題もないだろう。
『…で、その話のオチは何なんだ?』
『うん?いや、良かったなって。獄寺は見た?知ってる?』
『…何でてめぇはロミオなんだ、ってヤツだろ。見なくたって知ってる』
恐らく山本は大本のロミオとジュリエットがイタリアを舞台にした戯曲である事を知らないのだろう。放送されたと言う映画の方は見ていないが、そのタイトルを掲げている時点で、内容はそんなに差がない筈なのだ。獄寺はゆっくりと紫煙を燻らして、興味無さ気にそう言った。
『そうそう。何であなたはロミオなの〜?って』
『…』
『…何であなたは獄寺なの〜?』
『…馬鹿に付き合ってる暇ねーんだけど』



そこまでを思い出して、獄寺は一度だけ薄い瞼を上下させた。
急激に戻った視界に移りこむ色彩に、形のいい眉を少しだけ歪めても、視線はまっすぐ揺らぐ事は無かった。
「何で、獄寺なの?…か」
その翡翠が見つめる先には衛星放送のニュースが流れている。ブラウン管の向こうに映るは、人の良さそうな顔をして笑う日本人が一人。
「(何で、お前は山本武なんだろうな…?)」
メジャーリーグの球団へと入団する、日本のエースは小憎らしい笑顔で拙い英語を話してみせた。盛り上がる報道陣。眩く光るフラッシュの嵐。世界の、大勢の人間の前で笑う姿を、獄寺はただ見つめていた。今や『山本武』は全世界が注目のメジャーリーガーだ。それに対して自分はイタリアンマフィアの幹部。決して表立ってはならないその立場は、自分で選んだものだった。幼い頃からの夢が叶ったのだ。そして彼―『山本武』の夢も今、テレビの向こうで皆に祝福され現実のものとなった。喜ばしい事なのだ。だが。
「(元々が違うんだ)」
モンタギューとキャピュレットの様に、相容れない立場なのは元からなのだ。表と裏。そんな言葉であっさりと表せるその違いは理解していた筈だ。それでも共に過ごした時間は、未来―今に希望を持てる様な大切なものだった。期待をしていた訳ではないが、望みは捨て切れなかった。
「(でも所詮、俺達はロミオとジュリエットにはなれないんだ)」
障害があっても、問題があっても貫ける様な互いを想う気持ちが、まだそこにあったとしても。

俺はお前の為に全てを捨てる事も、命を絶つ事も出来ないから。
お前はお前の世界で。

さようなら、ジュリエット。

2008/01/23 皆川(何だこのオサレぶった文章ww)