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WORDS

A delusion sentence.

終わる世界(8059) 


獄寺に、酷い事をした。全てを諦めた様に投げ出されたままの身体を見て、山本は眉を歪める。こんな事をしたかった訳じゃない。そう言っても既に何の言い訳にもならない惨状に、口唇が微かに震えた。
「…っ…」
言いたい事は沢山ある筈なのに、言葉が何も出て来ない。身体に渦巻く熱が、不規則な吐息となって零れた。今更、何を言えばいいのだろうか。―何を、言うつもりなのか。どうしようもなくなった気持ちを自分勝手にぶつけて発散させて突き放した相手に。
「…ちがう」
ぽろりと口から出たのは全てを否定する言葉。何が違うと言うのだろうか。自分の気持ちが違うのか、こうなってしまった事が違うのか。何も違いはしない事実に、山本の足は糸を失ったかの様にその場に崩れた。
「ご、め…っ」
ベッドにだらりと横たわる獄寺の瞳は閉ざされたままだった。乱れた髪に口唇には血の跡。投げ捨てられたシャツに引き千切られたアクセサリー。曝された白い身体に散らばる鬱血痕は山本の熱の証だった。―何がきっかけだったのかは不確かなもので。いつもの様に獄寺の家で教科書をさらりと眺めて、適当に暇を潰して些細な事で言い合いを始めた。そして、抵抗する獄寺をベッドに引き摺って突き飛ばし、殴りつけた。突然の出来事に獄寺は抵抗を忘れ、驚きと怯えの入り混じった瞳で山本を見た。その翡翠の眼が山本を昂ぶらせたのかもしれない。思い出したかの様に抵抗するその身体を無理矢理掻き抱いて、彼の奥に何度も熱を放った。山本がそんな風に自分を思っているだなんて、想像もしなかっただろう獄寺は3度目の殴打から全ての抵抗を諦めた。目蓋を閉じて何もかも拒否した様に、呻き声すら上げる事は、なかった。
「ごく、で…ら」
それから獄寺の瞳は開かれる事が無く、山本が投げ出した時のままピクリとも動かなかった。息苦しい程の静寂。恐怖に震える山本が名を呼んでも、彼は応える事がない。山本は溢れて来た涙を拭う事も出来ずに、床に手を付いた。そして見上げるはまるで人形の様に横たわる獄寺の姿。何の表情も読み取れないその傷ついた顔を見て、山本は必死に祈った。

目を覚まして、その翡翠の眼に俺を映して。

「(でも、こんなどうしようもない俺は見ないで)」


2009/08/02 皆川(山本の\(^o^)/セイシュンオワタ)