<< RETURN TO MAINMENU

WORDS

A delusion sentence.

**Crime Scene Investigation 2


「獄寺開けて!」
「馬鹿が!勝手に何でも弄るからだ!!」
山本がいくら叩いてもびくともしない扉。清々しい程の厚さを誇る金属の扉。つい先程、それが唸りを上げて閉まり行くのを、山本と獄寺は驚きの眼差しで見ていた。瞬時にお互いに扉へと走った―間に合った所でどうにかなるものでもなかっただろう―が、その扉は無情にも二人の目の前で閉ざされてしまった。大声を上げ、扉を叩く二人。異なるのは、獄寺が扉の外側、山本が扉の内側にいると言う事だった。
「開かないの!?コレ!」
「ちょっと待ってろ、今誰か…おい、メイド呼んで来い!」
扉の向こうでは獄寺が家人を呼びつけている声と、忙しなく走り去る足音が響いていた。外界から完全に閉ざされた部屋の中、山本は未だに信じられない気持ちで扉を見つめる。窓もない、扉は閉ざされている。その扉にはモニターらしきものが設置されているが、電源の入れ方がわからない。そして自分の後ろには血まみれで横たわる男―今回の事件の犠牲者だ―がいた。こうなったのは、自分の所為だ。それは充分にわかっている。ほんの軽い気持ちだった。否、勝手に触れてはいけない事は理解していた。ただ、彼―獄寺の仕事が少しでもやりやすくなるのなら、と思っただけだったのに。
「…有り得ないのな…」
現場に到着した獄寺は、室内の薄暗さに舌を打った。手元が非常に見辛かったからだ。しかしそれは現場では良くある事であったし、獄寺自身そんなに苦に思う事ではなかった。ただ、何気なく呟いただけだったのだ。『電気ついてねぇのかよ』と。
「…ちょっと勘弁して欲しい…俺どうしたらいいの」
現場保存のためにその場に居た山本は、自分が立つ少し後ろの壁にスイッチがある事を知っていた。だから、何気無くそこへ行き、スイッチをONにしたのだ。勿論、そこは獄寺がきちんと写真も指紋も取っていたから、気を抜いていたと言ってもいい。検証は終っている。だから大丈夫。そんな安易過ぎる感覚で、そこに触れてしまったのだ。
「…だって普通こんな所にないでしょ…スイッチなんか…」
山本がONにしたスイッチ。それは電気のスイッチでは無く、パニックルーム―緊急避難用の密室―のスイッチだったのだ。パニックルームは作動したらコードを打ち込むまでは扉が開く事は無い。出口は目の前の扉だけ。緊急避難用の密室なのだ。そう簡単に出入り出来る訳がない。
「…山本!聞こえるか!!」
「獄寺!」
扉に備え付けられていたモニターに扉の外の風景が写し出される。どうやら扉の外から操作されたらしい。獄寺の不安そうな、それでいて不機嫌そうな顔を見て、山本は小さく息をつく。大丈夫。すぐに出れる。獄寺なら何とかしてくれる筈だ。山本はそう思った。だが―
「解除コードはわからない。今、業者を呼んでる。恐らく壁を壊さないと駄目だ」
そうなれば恐らく、部屋の電気は落とされるだろうと言う事。空調も止まるだろうと言う事が告げられた。
「…どれくらい時間かかる…?」
「…わからない。すぐ、ってのは無理だろうな」
獄寺が忌々しげに舌を打った。何かを考えながら話している獄寺が山本を罵倒しなかったのは、今更そんな事を言っても仕方なかったからだ。山本はパニックルームに閉じ込められた。それは変えようが無い事実だ。そして。
「山本。お前、手先は器用か?」
「…え?何…いきなり…」
「今から、俺の言う事を聞け。俺の言った事以外はやるな。いいか?」
パニックルームから出られなくなったのは、山本だけではない。未だに検証されていない遺体も一緒だ。時間が経てば消えてしまう証拠だってあるだろうし、空調の止まった密室では室内の温度が上がる。そうしたら遺体の腐乱速度が速まってしまう。早く検証しなければいけない。自分が出来ないのであれば、出来る他の人間が。
「お前が遺体を検証しろ」
「…え…?」

目に見えない証拠を探しだして、事件を解決する。山本が羨んで憧れたその仕事は、空気と暑さが淀む薄暗い室内で、獄寺の容赦ない怒鳴り声をBGMに作業の意味もわからないまま行われたのだった。


2009/10/19 皆川(加筆修正済/ニヤニヤします。笑)