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WORDS

A delusion sentence.

Log: 05/Mar 「当ても無くただ彷徨う想いを」


稀に、廊下で見かける姿。
豪奢な内装に些か不釣合いな位、素っ気無く纏われた漆黒のスーツと、堅苦しい程に締められたネクタイ。
窓からの太陽の光と微かに入り込んだ風に銀の髪は、淡く揺らめいていた。
何も変わらない、彼の姿。何も変わっていない、自分。
それでも。

「    」

口唇だけで呼びかけたその名に、彼はこちらを振り返る事もなく。
手元の紙束に視線を落としたまま、廊下の突き当りを曲がっていく。
こんなはずじゃなかった、なんて後悔した所で時は既に遅く。
彼の隣にいる事が出来るならば何もいらないと思っていた自分が浅はかで。
青臭い過去の日々より確実に近くなった距離は、果てしなく遠くなってしまっていた。
背中は預けてくれる。けれど、その背中を抱きしめてやる事はもう出来ないのだ。
「        」
何度呼びかけても、何度口にしても音にならないそれは、空気に消えて。
当ても無くただ彷徨う想いも一緒に消えてくれたら、と思った。

2008/06/22 皆川(24山獄でプラトニックは萌える)