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WORDS

A delusion sentence.

Log: 06/May 「遣らずの雨」


一度説明して貰った事をしつこいくらいに聞き直して
何度も聞けば嫌でも理解する頭でわざと数字を間違える。
その度に溜息をついて、薄い唇が呆れた口調で嫌味を言って
それでも突き放そうとしない彼の優しさを自分は利用する。
全ては、一緒に居たいが為に。

「じゃあ、俺もう帰るわ」
ただひたすらに、その言葉を言わせない様に足りない頭で試行錯誤しても
所詮普段から使ってない頭では頭脳戦ははっきり言って無謀で
きっと酷く情けない顔をしているであろう自分に気付くことないまま彼は席を立った。
「(そりゃそうだ。俺の気持ちに気付いてる訳がないんだから)」
握り締めたシャープを広げた教科書の上へと放り投げて、見送りの為に渋々立ち上がった時に
小さく窓を打つ音に気付いたのは、彼だった。
「げ」
ガラスの向こうに広がるは濃灰色の空。そこから落ちる雫はまるで堰を切った様に降り注ぐ。
見てる間に大雨となったそれに、思わず口角が上がった。
「遣らずの雨だな」
「あ?」

「小降りになるまで、もうちょっと勉強教えて?」

※遣らずの雨:帰ろうとする人をひきとめるかのように降ってくる雨。

2008/07/24 皆川(時雨蒼燕流萌え。笑。)