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WORDS

A delusion sentence.

Log: 15/Oct 「バナナ魚」


授業が突然、自習になったならば。血気盛んやんちゃざかりの生徒達は、まるで檻から解き放たれた動物達の様に自由気侭な時間を過ごす事だろう。申し訳程度に出された課題なんぞ見向きもせず、綱吉の席の周りに集まってきた獄寺と山本も例に漏れる事はなかった。
「自習って教師は何やってんスかね?」
「まぁいいじゃない?正直俺、自習で良かったと思ってるよ」
今日、当てられそうな気がしてたんだ、と綱吉は力無く笑う。自由と言えど羽目を外せばすぐに終了するその貴重な時間。それを皆、必死に守ろうとしてか、特別騒ぎ立てる様な無粋な人間はいなかった。椅子を引く音も控えめに、獄寺は綱吉の後ろの空いている席に腰掛ける。
「確かにタルいっスよね。授業とかって。教師の説明じゃ訳わかんねーし」
「獄寺だって教科書読んでるだけじゃん」
「…うるせぇな…だいたい書いてあんだよ!そのままやれば出来るんだ普通は!」
そう言い放った獄寺の顔を見ながら、それじゃ出来ない俺は普通じゃないって事?などと思った綱吉は、ある事にふと気付いた。
「…獄寺くんてさ」
そこまで言って、綱吉は口を噤んで苦笑いを零す。何で今まで気が付かなかったんだろう、というべきか。次に続く言葉を何度も頭の中で繰り返しながら、獄寺の顔をじっと見つめる。
「何スか?」
「…いや…全然関係ない話なんだけど。どっかで読んだ本で、日本人の子がアメリカ人の子の顔を見て、言う台詞があるんだよね。それを思い出しちゃって」

「獄寺くんって、まつげも銀髪なんだなぁって思って」

きょとん、とした獄寺の顔を見て綱吉はこういう顔は意外と幼いんだなぁ、等と思ったが、その次に来る台詞を唐突に思い出し、表情を曇らせた。
「はぁ…まぁそうッスね…」
しかし獄寺の事だ。その本は読んだ事がないだろうし、変な切り返しをする人間でもない。自分の話として全くオチがなくなってしまっているが、自分にその続きを言う勇気はない。この場は何事も無く終わらせよう。そう思って何気なく獄寺の隣に立つ、山本を見た綱吉は、途端にしまった、と思った。

「『下もだぜ、見るか?』」

山本の、爽やかでよく通る声が響き、教室がしん、と静まり返った。
「つーかそれ山本の言っていい台詞じゃないから!!」

2009/04/19 皆川(修正無し/BANANA FISH・アッシュと英二の会話から)