<< RETURN TO MAINMENU

WORDS

A delusion sentence.

喪失の鼓動(沖田×斎藤)


「君は、わかってないよ」
ばさりと落とした羽織は真っ直ぐに床へ。掴んでいた指先には渇ききっていなかった血液がほのかにこびりつく。その血臭を感じた瞬間、沖田は腹の底がカッと熱くなった気がした。わかっていない。わかっていないのだ。望んでも手に入らないそれを容易く捨てる様な、そんな事を平気で出来る位に。

「どんどん傷作って、作った先からどんどん治してそれを馬鹿みたいに繰り返して」


「そうやって、僕よりも早く君は死ぬんだ」


言ってしまったと思わなかった訳ではなかったが、口に出した事を後悔はしなかった。沖田は固まったままの背中に視線をやりながら、おもむろに布団へと歩を進める。その足音を何と思ったのか、斎藤はぎこちなく振り向いた。驚いた様な、それでいて苛立った様な複雑な顔だった。絡む視線、お互い目も逸らさず何も言わずに時が止まる。布団に寝転がる斎藤の傍らに立ったまま、振り向いた形のまま、見つめ合う。
羅刹は不死の存在ではない。それがわかった時、誰もが絶望を覚えた。動かなくなった腕が動くようになる。受けた瀕死の傷が治る。冗談みたいなそれが何の代価も無く起こる訳が無いのだと、改めて思い知らされた。代価は、命。人を超えた存在―鬼と呼ばれる様な―になろうとも、元は人。限りある命を集中的に燃やす事によって得られる、羅刹の力。それは、羅刹の力を使えば使う程、命が燃え尽きていくと言う事だ。
どうしたって死から逃げられなくなった沖田と、羅刹になった事で自ら死を追いかけ始めた斎藤。先が見えないとは言え、少なくともまだ自分よりは長く燃えるはずの命なのに、と思う。なのに、どうして、そんなに、なんで、

そういうことをするの

「…ごめん」
「…総司」
「なんて言うと思ったかい?」
意識せずとも顔に乗っていなかった表情に、今度は口唇だけの笑みが乗った。何だか今日は止められそうもない、と沖田はどこか冷静な頭で思う。無性に腹が立った。そして、どうしようもなく切なかった。
「僕に謝る意味も理由もないよ。むしろ謝らなきゃいけないのは、はじめくんの方でしょ?」
「…総司?」
斎藤は沖田の不可解な言動に、思わず上体を起こした。そんなに急に動いたらまた眩暈を起こしかねないのに。沖田はぼんやりとそう思いながら、床へと膝をつく。至近距離で見つめた斎藤の瞳が揺らいでいる。戸惑いながらもこちらの意図を必死で掴み取ろうとしているのが目に見えた。
「そんなに粗末にしちゃいけないんだよ」
「…」
目の前の斎藤は何も言わず−もしかしたら言えないのかもしれない―布団の上で微かに後退る。
「そんなに粗末にするならさ、僕にくれたっていいじゃない」
逃げの姿勢を取った斎藤の左腕を捕まえる。万全の時ならこう簡単にはいかなかっただろう。だが、弱って戸惑っている彼を捕まえるだなんて、昨日の晩飯を思い出すより簡単だ。それが例え、気のせいでは済まない程に筋力が落ちた自分であろうとも。
ぐっ、と引き寄せて両腕を掴み、些か怯えた濃紺の目を射抜く。

「はじめくんより大切に、大事にしてあげるよ」


1:3→

2010/08/01 皆川(…沖田が一人で盛り上がってきた…時系列は見逃してください)