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WORDS

A delusion sentence.

藍椿(BLEACH:六番隊)


ひたり、ひたりと響く廊下。
頬を撫でる夏風に、ふと見上げた先は澄んだ青。
雲が流れるそれを見ながら、恋次は薄く息を吐いた。

あの、嘘の様な出来事から四日経っていた。


「…何故生きているのだと…思っているのだろうな…」
聞きたくなかった。良く響く、澄んだ音には変わり無かったが、今まで聞いた事の無い弱々しい声音だった。何も無い薄白の四角い部屋が今の居場所な彼の人は、寝台の横、開かれた窓から空を見つめていた。
外は晴れだった。時折、小鳥が飛び掠めていく。
「…まさか」
部屋に入ってすぐの、寝台から一番遠いであろう場所に自分の場所を陣取った恋次はゆるりと瞬きをし、そして口を開いた。この部屋で言葉を発したのは初めてだった。思いの他かすれた、酷い声だった。元々の自分の声だったかもしれないとも思うけれど。
「…」
恋次の声に、返答はなかった。元より会話をするつもりもなかったのかもしれない。
「アンタが死んじまったら、俺は誰を目指して強くなりゃいいんスか」
あくまで、自分の為だと。強調するように言った言葉。その裏に隠した本音に気付く程、この人は今なら自身を思えているだろうか。そのピンと張った両の肩に乗せた重く苦しい沢山の物。それを恋次は何一つ感じる事が出来なかった。血で汚れた双極の丘で、ぽつり、ぽつりと紡がれるそれを聞くまでは。
「(アンタはもう自分の為に生きてもいいだろ)」
姿を見つめていた視線を外し、恋次は膝の上で組んでいた手を組み直した。


手に入れた力―卍解は、今の自分なら何でも出来る、そんな気分にさせた。それを得るまでに積んだ苦労や痛みなど、結果が出た時点で殆ど無い物扱いだった。今なら、今なら助けてやれる。重たい筈の足が勢い良く地面を蹴っていた。諦めたかの様な彼女の伏せた眼差しがちらついた。それに背中を押されるがまま、見慣れた風景に見慣れた顔を、痺れている筈の腕を振り上げ蹴散らした。
そして、蹴散らした先で感じた霊圧。
―また、焼き殺されるかと思ってしまった。


2→

2009/01/01 皆川(2007年1月にひっそり発行した本で す)