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WORDS

A delusion sentence.

藍椿(BLEACH:六番隊)


初めて出会ったのは恋次が真央霊術院へ入学して二年経ったある日の事だ。周りの人間が悉く不合格を突きつけられた初級白打の二次試験。合格した喜びから走ってはいけない廊下をけたたましく走り、彼女の組の扉に手をかけた。早く知らせたかった。地べたを這いずった日々を共に過ごした仲間なのだ。きっと喜んでくれる。そう思って力任せに開いた扉の向こう、ともに喜びを分かち合おうとした彼女の瞳は見開き、揺れていた。縋る様な眼差しに、ただ事ではない何かを感じた。笑みを貼り付けたままの間抜けな顔が僅かに引き攣る。
「では、色好いお返事をお待ちしております故…」
年を重ねた声がして、音も無く近付いてくる人物達。先頭を歩く姿は死覇装に上等の羽織。こちらをちらり、とも見ない視線は当然に交差する事も無く。
静かに擦れ違う瞬間に感じた霊圧、その時は焼き殺されるかと思ったのだ。



「(未だにちょっと信じられねぇもんな…)」
白い寝台に白い寝巻き。幾重にも巻かれた白い包帯は首元まで蔓延っている。あの、あの朽木白哉が。理想を押し付けている訳では無いが、彼が戦いに於いて負けるだなんて思わなかった。自分が死神になってからは、いやきっとそれより以前から彼は負けた事なんて無かった筈だ。
「…隊長…」
視線は逸らしたまま、独り言の様に呟く。この何も無い空間なら。この小さな声も聞こえているだろうけれど。
「…俺」
彼は動かない。もしかしたら聞いていないのかもしれない。それならそれでも構わないのだ。恋次はすう、と少しだけ沢山空気をすって目を閉じた。

「アンタが生きてて良かったと思っています」

紡ぎ終えた口がゆっくりと笑みの形を取った。言葉にすると以外と簡単だ、と恋次は思った。所詮、畜生は畜生らしく簡単で真っ直ぐな言葉で真っ向勝負しか出来ないのだ。そんな自虐にも似た事を思いながら、開いた視界の向こうは何も変わらない風景があった。彼は、窓の外を眺めたままだ。
「(俺の隊長はこれからもアンタなんだからな)」
これからも気高くしぶとく生きればいい。出来る限り音を立てない様に立ち上がり、彼に背を向けた。もうすぐ時間だ。隊長が不在の今、副隊長である恋次には隊を纏めると言う立派な仕事があるのだ。
「俺に勝ったまま、死ねると思わないで下さいよ」
冗談めかした言葉。本心では無いと言えば嘘になるが、まだ死なせる気は更々無いのだ。
そんな自分の声に軽く笑いながら部屋から出、扉を閉めようとした、その時だった。
開け放たれた窓から、夏風と共に澄んだ声が流れる。

「では、寝首をかかれぬ様、気を付ける事としよう」

護廷十三番隊・六番隊隊長・朽木白哉が隊務に復帰する二日前の事だった。


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2009/01/01 皆川(原作では一護に邪魔されたあの場面です よ…)