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WORDS

A delusion sentence.

L.Happiness(8059)


玄関先にいた事もあって、声もかけず無防備にドアを開けてしまった獄寺の真正面。薄暗い廊下に佇むのは、今の今まで会話をしていた山本の姿だった。
「よ!」
片手を軽く掲げ、いつもの調子で言った山本を見て、思わず繋がりっぱなしの携帯を見るも、今も尚通話中であった。それを恐る恐る耳へと当てても、声がしない携帯電話。微かに聞こえるのは、向こうの空間の音。
「…山本?」
小さく名前を呟いた獄寺の目の前で、ゆっくりと山本の耳に当てられるのは、傷一つ無いメタリックブルーの携帯電話。
「…なぁに?」
「てっ…めぇ!つーか何で携帯持ってんだよ!」
耳に当てた携帯電話から聞こえた声と逆の耳に届いたのは同じ山本の声で、夜も更けたというのに獄寺は玄関先で大声を出してしまった。山本はいつもの能天気な笑顔で獄寺を宥めながら、獄寺の身体を押す様にして玄関へと入り込む。
「ちょ…何勝手に入ってんだよ!押すな!」
「そんな大声出すと近所迷惑なのなー」
しー、と人差し指を口唇に当て、山本は玄関のドアを閉め後ろ手で施錠する。途端に暗くなった視界。山本はここぞとばかりに油断しきった獄寺の身体に手を回した。
「何だよ!」
「誕生日プレゼント届けに来た。俺の電話番号」
「はぁ?何だソレ」
「登録してな。じゃあいくよ」
抱き付かれたまま獄寺が困惑していると、山本が徐に獄寺の耳元で軽く息を吐く。それにビクリ、と肩が跳ねてしまい、獄寺は思わず目を閉じてしまった。
「…ぜろ、きゅー、ぜろー…」
吐息混じりで耳に届けられるのは、聞き慣れた数字だ。これは聞きながら登録しろと言う事なんだろうか、と獄寺は思ったが、わざとでしかない吐息がくすぐったくて、逃げる様に首を捻る。
「…早く、ホラ登録して。はち…」
「…んなコト言ったってお前…!」
山本の肩越しに自分の携帯電話を持ち上げ、電話帳を開く。その間も緩い攻撃は止まない。時折耳に触れる口唇に、携帯電話操作中の指が震えてしまう。
「もういっかい最初っから言うな?ぜろ…」
「090はもうわかってんだよ!」

玄関先でじゃれあいにも似た押し問答を続けていた矢先、山本の電話番号を登録完了した獄寺の携帯が突如着信を告げた。ちら、と液晶を見ると『やまもとたけし』の表示。
「…なんのつもりだよ」
「いいから出て」

「『誕生日おめでとう。獄寺』」
携帯を通じたデジタルな声と、もう片方に注がれるリアルな声。眉間に皺を寄せた獄寺が、山本の意図に気付くまであと少し。

着信履歴:9/9 23:59 やまもとたけし
一番最初に祝えないなら、一番最後に。

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2008/09/15 皆川(LはLastのLですた…色々すみませ ん)