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WORDS

A delusion sentence.

Lier game(8059)


「俺、エナロット当たったんだぜ〜4等ビンゴ!」

静寂を打ち破り、そう言いながら執務室に入ってきた男を、その部屋の主―獄寺隼人はぼんやりと見やった。デスクではなくソファに座る獄寺の周りは、書類が散らばっている。潔癖とも言える程に整理整頓されていた室内は今や、紙束で散らかっていた。
「…どしたんだ?これ」
「ネズミを探してた」
獄寺の素っ気無い言葉を聞くなり苦笑いを零した男―山本は、ソファの周りに散らばる書類を拾い上げる。そこに並ぶ数字の羅列と走り書きされた獄寺の字を見て、軽く肩を竦めた。こんな書類だけで―とは言っても内容は山本に理解出来ない範疇だが―’ネズミ’を探すだなんて。しかし、昔から獄寺を見つめ続けている山本は彼のその頭脳がとても出来がいい事を知っていたから、きっと見つけ出せるのだろうと思った。獄寺から、逃げられる訳がないのだ。
「もう見つけたけどな…ボンゴレなめんなっつーんだ…」
そう言って笑う獄寺を見る山本も、実は獄寺から逃げられないでいた。山本がボンゴレに損害を与えるとか言う事は有り得ない。だから”ネズミ”の様に獄寺にターゲットにされることは無い。利害とか組織とかそう言う事絡みでの『逃げられない』ではなかった。ただ、単純に山本は獄寺自身から逃げられない。距離を置こうと思っても、傍に居る事を望んでしまう。近過ぎる距離がこれ以上近付く事は無いと解りながらも、山本は獄寺を思っているのだ。だが、長い年月をかけて作り上げてきた場所と自分と―彼を守るために、山本はその気持ちを口に出す事は無い。実らないのなら、墓場まで持って行く自分自身最大の秘密だった。

「で、何だって?」
「あぁ…俺、エナロット当たったって…」
「…へぇ」
「うわ。冷てぇ」
エナロットとはイタリア国営の宝くじで、1から90までの数字の中から6つの数字を選ぶロトくじだ。気軽に購入出来、ルールも簡単な事から広く楽しまれている。しかし、その手軽さとは裏腹に的中率が低く、キャリーオーバーが続き、莫大な当選金になった事もある。だが、そんなエナロットに当たったと聞いても、ソファにだらりと座る獄寺は特別驚きはしなかった。逆に呆れた様に溜息をつく。
「…もっとマシな嘘はねーのか…お前ガキかよ…」
「えー結構リアルだったと思うんだけど。4等とか。1等とかじゃないトコとか」
本日は4月1日。言わずと知れたエイプリルフールだった。嘘をついてもいい―嘘やジョークで楽しもうと言うその日に、一日中執務室に篭り眉間に皺を寄せ書類と睨めっこしている獄寺へジョークをかまそうとする強者はいなかった。彼は終始、不機嫌だったからだ。だが、先程”ネズミ”を発見した今の獄寺は一仕事終わり、幾分余裕がある。呆れた態度を取りつつも、微かに笑うくらいのゆとりがあった。
「大体お前はエナロットやらねーだろ…ったく下手糞なんだから周りに踊らされんなよ」
「下手糞って言うなよ…じゃあ獄寺は嘘が上手い訳?」
散らかした書類を踏まない様にしながら、山本は獄寺の向かいのソファへ腰掛ける。緩やかな空気を纏う獄寺は、どうやら疲れているらしいが、自分を追い出す気はないのだろう。自分の発した言葉に、微かに考える素振りをした獄寺の瞳が細められたのを気付いた時、彼は悪巧みをひらめいたかの様に口角を上げた。

「あぁ。俺は嘘が上手いぜ。嘘、ついてやろうか?」

2→

2009/04/01 皆川(何か無駄に長くなったorz)