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WORDS

A delusion sentence.

Lier game(8059)


「…」
嘘をついてやろうか?などと面と向かって言われて、山本は一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった。嘘と言うものは相手を騙すために言う、事実とは違う言葉なのだ。それを解っていながら騙される程、山本自身だって愚かではない。
「嘘ついてやろうか?ってこれから騙すヤツに普通言わなくね?」
「上手い嘘をつけば、解ってても騙されるだろ」
そう言い挑戦的に片眉を上げた獄寺を見て、山本は自分の何処かで火花が散った気がした。これは余りにも自分が馬鹿にされている気がしたからだ。確かに嘘をつくのは下手だろうし、彼みたいに聡明でもない。だが、解りきった事で騙される程、いい人でもない。執務室の座り心地のいいソファに背中を預けると、山本は軽く笑った。
「いいぜ。俺は絶対騙されない」
「…俺はこれから一つだけ嘘をつくからな。しっかり聞けよ」

気だるそうに話し始めた獄寺の話は、山本を拍子抜けさせるものだった。何を考えているのか、そう思いながら聞き入った話は、山本自身がよく知る話だったからだ。彼と自分が出会った頃の、あの幼い日々の話だったのだ。しかし―
「俺は14の時から、好きなヤツがいるのを知ってたか?」
「…え?」
いきなりの言葉に、山本は思わず間抜けな声で聞き返した。これは嘘か真実か判断する事が出来ない。今思えば獄寺とはそういう話を余りしなかった。それは自分が聞きたくない知りたくない部類の話だったからかもしれないと山本は思った。自分が想う人物が、自分以外を想っている話なんぞ聞きたくないものだ。
「俺は今でもそいつが好きだ」
「…へ、へぇ」
嘘ならいいと思いながら、見極める為に彼の瞳をじっと見つめた。しかし彼の瞳に揺らぎは無い。変わらず翡翠が煌いている。
「一度、告白してしまおうと思った事もあった。お前も知っての通り、俺はそんなに気の長い方じゃないからな。そいつの事考えて一喜一憂する自分に酷く腹が立った。面倒とすら思った事もある」
「…」
「何でこんなに近くにいて、こんな思いをしないといけないんだと思っていた。…いや、思っている、だな」
話し続けながら、微かに水気を帯び始めた獄寺の瞳を見ていると、山本は何が何だか解らなくなって来る。本当の胸の内を曝け出して話している様に感じ始めて、山本は完全に獄寺の術中にはまったと思った。
その時―
「お前の事だよ。山本」

それを聞いた途端に、頭の中がスッと冷えていく気がして、山本は苦笑いを零す。ゆるりと後頭部を掻くと、小さく息を吐く。何度思ったかわからない彼からの言葉。しかしそれは山本の世界だけで紡がれる言葉だ。確かに少し吃驚したが、最後の最後で彼は失敗をした様だ。そんな言葉には、騙されない。
「…俺の勝ちだな。わかったもん。どれが嘘か」
「…へぇ?じゃあ言ってみろよ」
「最後。俺が好きだってのが嘘だな。有り得ない」
そう言うと獄寺は徐に上体を起こし、自分の座るソファと山本の座るソファの間にあるローテーブルに乗り上げた。彼の膝で、テーブルに散らばる書類に皺が走る。ゆっくりと伸ばされた白い手にネクタイを掴まれて、山本は彼に引き寄せられた。
「お前の、負けだ」
「…え?」
至近距離でそう呟かれ、山本は目を瞬いた。煌く翡翠の瞳が軽く細められて、尚近づいた顔。
「俺は最初に言ったよな?」


「”俺はこれから一つだけ嘘をつく”」

同時に触れ合った口唇に、山本は今日一日がもしかしたら全て嘘なのかもしれないと思った。


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2009/04/12 皆川(元ネタは半端ねぇ)