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WORDS

A delusion sentence.

Secret window(8059)


4月24日。その日、山本武は浮かれていた。
「(…親父、今日俺は男になります)」
家の洗面所で自分の顔と散々睨めっこをした後、2階にある自室の窓から外を見る。確認するのは、登校中の彼の姿。いつもの日課だった。
「(今日はゆっくりだな…)」
どこか思案顔の彼の姿に口角を上げると、ジャストなタイミングで家を出るために階段を駆け下りる。スニーカーを履いて、気合を一つ。
「(俺、冴えてる…!)」

「獄寺、おはよ」
「…おう」
いつもの様にジャストなタイミングで家を出た山本は、何食わぬ顔で獄寺に話しかけた。ちらり、と視線を寄越した獄寺も、いつもと変わらず素っ気無い。込み上げる笑みを隠しながら山本が他愛の無い話を始めても、獄寺は”いつも”と変わらない。話を聞いているのか聞いていないのかわからないその態度に、山本は自分の作戦が成功しているのだと確信した。不特定多数がいつ何時口にするかわからない情報を、獄寺に認識させない事。それは想像以上に困難だった。無理矢理話題を変えたり、奇声を発してみたりと色々やってまで秘密にしたかった情報。決して気付かれてはいけない事―それは4月24日が自分の誕生日であると言う事だった。
「(今日から俺は変わる。獄寺も)」
山本は、獄寺が好きだった。その気持ちは友達と言う範囲を超えたものだ。思春期真っ盛りと言うのもあり、それは山本の頭の中でどんどん進んで行き、もうそろそろ制御出来ない状態にすらあった。だが、気持ちを獄寺に告げる事は山本には出来なかった。拒絶されたら、と思うとどうしても言えなかったからだ。
「(雰囲気で押せば多分、大丈夫)」
しかし、獄寺と言う人間は決して人付き合いが上手い方ではないし、嫌なものは嫌だとはっきり言える人間だ。そんな彼が自分とこうして一緒にいると言う事は嫌われている訳ではないと言う確信もあった。冗談を装ってその身体に触れても、返ってくるのは小言のみ。勉強会と称して、彼の部屋に入り一泊した事もある。
「(…大丈夫)」
それに彼が見た目に似合わず、意外に優しい奴なのもわかっていた。だからこそ、今日が自分の誕生日だと知られてはいけなかった。24日当日まで、気付かれてはいけなかったのだ。
「(知らなかった獄寺が言う言葉は、一つしかない)」


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2009/04/24 皆川(すみません続きますorz/山本誕生日おめでとう)