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WORDS

A delusion sentence.

Secret window(8059)


山本が推測した獄寺の言葉。4月24日が山本の誕生日であると当日まで知らなかった獄寺の言葉。意外と優しくていい奴で、外見に似合わず相手を喜ばせる事が好きな獄寺の言葉。それは―

『何か欲しいものあるか?』

前日までに誕生日だとわかっていれば、何かしら対策が練れただろうが、当日に発覚すれば手の打ち様が無い。サプライズ的な要素も付け加える事が出来ない上に、被りは許されなくなる。他者と差をつけようとすれば、それは本人―山本の喜び度合いで変わってくる。しかし、時間は無情にも過ぎていくのだ。ゆっくり考えている時間はない。そうなれば、短気な獄寺は必ず直球を投げてくるに違いない。山本はそう思ったのだ。
「(直球勝負は得意なのな)」
珍しく頭を使って練った策が、ほぼ成功したのを感じて山本は口角を上げる。あとは獄寺が痺れを切らすのを待つのみ。山本は頭の中で何度も繰り返したシュミレーションを思い出した。

『何か欲しいものがあるか?』
そう言った彼は少し悔しそうな顔をしていた。風に吹かれた銀色の髪が、軽やかに舞う。そんな彼を見ながら、山本は彼と少し距離をつめると、目を細めた。
『…俺は、獄寺が欲しい』
いつもの声ではない少し低めの声。聞き逃さない様に、聞き間違わない様にゆっくりと言葉を発する。
『…え?』
『獄寺を下さい』
尚、距離をつめて彼の頬に触れようと手を伸ばす。それに驚いてか、彼は反射的に一歩後ずさるも背中がフェンスに阻まれて、それ以上距離は離れなかった。自分を見る翡翠の瞳が不安そうに揺れる。
『ずっと、好きなんだ』
色素の薄い頬を撫で、そのまま手を口唇へと滑らせる。意味ありげに指で口唇をなぞると、彼は微かに顔を背けて自分の胸を押し返してきた。心なしか赤くなった耳に近づき、吐息で話す。
『獄寺の、全部が欲しいよ』
自分の胸を押し返す腕を掴んで、そむけた顔を自分に向け直して。何か言いたげなその赤い口唇に顔を近づけて―

「山本!お前聞いてんのかよぉ〜!」
その声に山本はビクリと身体を跳ねさせた。現実に戻ってみれば、目の前にはクラスメイトの面々がいる。素っ気無く包まれたものや、可愛らしいラッピングが施されたものが教室の椅子に座る山本の目の前に積まれていた。
「…あ、あぁごめん。聞いてなかった…」
「何だよお前〜!折角こっちが祝ってんのによぉ〜!誰のためにコレ用意したと思ってんだ〜?」
「ごめんごめん。わざわざありがとな!」
登校してから山本の周りには誕生日を祝うクラスメイトや部活の仲間、挙句の果てにはよく知らない人などが引っ切り無しに訪れていた。これも山本の人柄の良さ―人徳によるものなのだろう。たまに誕生日を祝うだけではなく、あわよくば…と言う他意を感じるものや何しに来たのだろうと思うものもあったが、それは見ない振りをしている。それより。
「(チラ見し過ぎ)」


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2009/05/07 皆川(何か無駄に長いorz/山本誕生日おめでとう)