Secret window(8059)
朝、教室に入るなり『おめでとう』の嵐を受けて、ある程度は予測していたとは言え驚いた山本。しかしそれ以上に驚きで一瞬固まってしまった獄寺が、状況を把握してから早3時間弱。時間は昼休みを迎えていた。その間、山本は何か言いたげな獄寺の視線を感じている。まるでタイミングを計っている様な、そんな視線に山本は笑顔を隠せなかった。
「(…来る)」
山本の周りから人が途切れた瞬間、ガタリと音がして獄寺が山本に近づいた。
「…ちょっと…言いたい事あんだけど」
「(キタコレ!)」
言い難そうなその言葉。他人に聞かれたくないのか、山本の耳元で話そうとする獄寺に、山本は嘘臭い程真剣な顔つきで返す。
「ここじゃなんだろ?屋上行こうぜ」
「…あ?…あ、あぁ」
別にここでもいいんだけど、と小さく聞こえた気がしたが、その後の展開は山本のシュミレーションではとてもじゃないが談笑を楽しんでいるクラスメイトの前で繰り広げられる事ではない。人気のない場所推奨とばかりに、場所を提案した山本に、獄寺も渋々といった感じでついて行く。
「(今日俺、すっげ有名人じゃね?)」
廊下を歩けば皆が山本を見て笑顔を返した。誕生日って凄い効果だな、と思った山本の後ろ、獄寺は俯いたままだ。何を考えているのか。きっとどうやって話しを切り出そうかとか考えているのだろうと思うと、山本は嬉しくなった。完全に獄寺を追い詰める事が出来たと自分の普段使わない頭を褒めたくなった。屋上へ向かう階段もまるで一つ大人になるための階段の様で、早く駆け上がってしまいたい衝動に駆られる。
「…で、何?言いたい事って?」
屋上について、自然な流れで物陰へと獄寺を誘導した山本は何食わぬ顔でそう聞いた。答えならもう準備万端だった。
「あー…何か…悪かったな、って」
「うん?」
「すぐ気付かなかったから、さ」
申し訳なさそうに言う獄寺の顔は、未だに俯いたままだった。どんな表情をしているのか気になったが、ここで下手な動きをして雰囲気が壊れたら、作戦が失敗してしまう。山本は逸る気持ちを抑えて、獄寺の次の言葉を待った。
「いや、でも普通気付かないって言うか…自分で気付くかなとも思ってたんだけど」
「…」
「まさかここまで気付かないとは思わなくてさ…誰も言わねーし」
薄情だよな、と小さく笑った獄寺に、山本は息を飲んだ。来る、もうすぐ来る。ゆっくりと顔を上げた獄寺の瞳は、山本のシュミレーションと言う名の妄想の中より、綺麗に煌いていた。形の良い口唇が、思い描いた音を発して―
「山本お前、さ」
「ファスナー、朝からずっと全開だぜ」
その言葉に勢いよく下を見れば、勝負と思って新しく下ろした真新しい下着が、堂々お披露目となっていた。
「(…新しいパンツで良かった…)」
親父、今日から俺はどうやら色んな意味で男になれそうです。
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2:
2009/05/07 皆川(ぐだぐだですんませんorz/山本誕生日おめでとうでした)